In the Time of Clay
二階堂 明弘
2025年 11月 26日
ー
12月 28日
SOM GALLERY

SOM GALLERYは、11月26日(水)から12月28日(日)まで、二階堂明弘による個展「In the Time of Clay」を開催いたします。本展は、土と器という人類最古の関係に立ち返りながら、「種」と「器」という二つの原型を通して、素材と生命、形と時間の関係を再構築する展覧会です。
二階堂明弘は1977年北海道札幌生まれ。1999年文化学院芸術専門学校陶磁科を卒業後、2001年に独立。2002年に陶芸の中心地・益子へ移り、以後は静岡・伊豆を拠点に制作を続けています。益子の土や薪窯による焼締めを用い、極限まで薄く成形された器を通して、土がもつ呼吸や熱、時間の痕跡を可視化してきました。彼の作品は、制作の瞬間で完結せず、使用者の触れ方や経年の変化を受けながら生成し続ける存在です。
それは固定的な「完成品」ではなく、関係のなかで成熟していく「場」としての器であり、その変化の過程にこそ美が宿るという制作観が貫かれています。現在は国内にとどまらず、ニューヨーク、パリ、台北、上海、北京などでも個展を開催しています。
本展で発表されるインスタレーションは、籾殻と種籾をモチーフに、器という形式が本来もつ「包む」「保持する」という機能を再考するものです。籾殻は役割を終えた外皮としての「余白」を、種籾は内部に潜む生成の契機としての「内在性」を象徴します。その対置は、自然と人為、素材と行為、可視と不可視といった複数のレイヤーを媒介しながら、二階堂の制作が“物質と身体の協働”によって成り立つことを示しています。
焼締めの土や化粧土の薄い被覆は、焼成の過程で酸化や炭化などの不可逆的変化を受け、素材自体に時間の痕跡を刻み込みます。極限まで薄く成形された器体の構造は、物質的な緊張と脆さの臨界を示し、作為と偶然、計画と逸脱のあいだにある振幅を可視化しています。ここでは陶という素材の耐火性や変容性が、単なる技法上の特性ではなく、時間と行為を記録するメディウムとして機能しています。
その意味で本作は、完成した物体ではなく、生成・変化・崩壊といったプロセスを内包する「開かれた場」として提示されます。鑑賞者は、空間における形態の張力と物質の変化を通して、器という形式の拡張、すなわち触覚的・時間的な経験としての造形を体感することになります。
また本展は、「起源への感受」と「現代における形の思考」が交差する場でもあります。
土や火、手の痕跡は、人と自然を結ぶ古層の記憶を呼び覚ますと同時に、制度化・非身体化していく現代の制作環境に対して、素材と身体の関係性という原点から応答する実践でもあります。
二階堂は、侘び寂びや余白の美といった感性を基層に置きながら、「使う」「変わる」「続く」という日常的な行為のなかに、工芸と現代美術を接続する新たな思考の枠組みを見出しています。
その試みは、形態の更新というよりも関係の更新。素材、行為、時間、鑑賞者のあいだに新たな知覚の秩序を構築する実践として位置づけられます。
Works
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