Interverse
渡辺えつこ、栁澤貴彦, ニミュ, 坂爪康太郎, 西本樹生
2023年 6月 23日
ー
7月 16日
SOM GALLERY
この度 SOM GALLERY は、5名のアーティストによるグループ展「Interverse」を、日本橋馬喰横山にて開催いたします。
渡辺えつこは、国立デュッセルドルフ芸術大学でゲルハルト・リヒターに師事し、以来、約30年間に渡りドイツを拠点に活動してきました。これまで、見慣れた日常の光景の中に潜む異質な場面を巧みに見つけ、それを一つの風景として絵画の世界に置き換えることで、私たちの認識がどのように現実を捉えているのか現実が認識される過程でどうやってずれていくのかを描き出しながら、一方では絵画そのものの在りようについて問いかけをしてきました。本作品は、窓が規則的に並んだオフィスビルの風景へ、ストロークを介入させることで「不完全」へと退行していき、それらを補填していく過程を通じて「具象と抽象の中間」的なイメージを現前させ、「絵画の拡張」に試みます。
栁澤貴彦は、神奈川県出身のアーティスト。栁澤は、自身を取り巻く様々なシンボルや実際には存在し得ない、形象(モチーフ)を彼自身の世界観に置き換え、画面へレイヤー状に配置します。捉え所のない形象(モチーフ)は、鑑賞者に応じて、多重の意味を持ち合わせ、栁澤のキャンバスを通して無視できないものへと生まれ変わり、物理的な存在感を獲得します。
中国に生まれ、北京の中央美術学院でBFAを取得、後にニューヨーク・アカデミー・オブ・アート⼤学院を卒業したNimyu(ニミュ)は、現在東京を拠点に活動するアーティストです。
ニミュは、ペインティング、ビデオ、インスタレーションなど様々なメディアを通して、情報主導型社会の複雑なダイナミクスと、私たちの世界認識を形成する微妙な情報管理体制を示唆しています。
ニミュの作品は、情報の深い影響と作用を強調しながら、物語の信頼性に挑戦し、アイデンティティの複雑さを探求することを目的としています。また、作品を通して、批判的思考、内省、そして私たちがどのように情報を受け取り、処理するかについての深い理解を刺激する瞑想的な対話を育んでいます。
坂爪康太郎は、東京都出身、2012年に武蔵野美術大学を卒業し、現在も東京で活動するアーティスト。坂爪は、電動ろくろで挽いたうつわを変形させ、繋ぐことで「表裏」や「内外」といった相関関係を感じさせる仮面彫刻「Blinkers」シリーズを制作しています。空間を作り出すうつわとしての機能を昇華させ、回転体としての造形を推進させることで、坂爪は、目的を排したオブジェを制作し、彫刻作品に偶像崇拝的な用途なき価値を与えることに成功しました。
西本樹生は、愛知県出身、2020年に愛知県立芸術大学を卒業し、現在も東京で活動するアーティスト。西本は、デジタルツールを用いながら人物や背景にあたる要素を構成・演出し、それらをモチーフに絵画制作をしています。「演出されできた場面」と「演出を行う装置」といった二つの関係性を感じ、連作にして場面を描くことにより、一つの場面だけでは判断できなかったこと、描かれた場面の外側の領域に広がっているかもしれない可能性を形にしています。
本展は、境界の拡張をテーマに、絵画や彫刻作品を通じて、既成概念の拡張ひいては表現の拡張への挑戦を意図しています。彼らの作品は、一見すると20世紀初頭のシュルレアリスムを想起させるような表象として捉えられるかもしれません。しかし、彼らの作品に内在するものやその基礎として形付けられているものは、当ムーブメントと大きく異なっています。
ダダイズムやシュルレアリスムが目指したものは、第一次世界大戦期及び戦間期における、人間そのものの存在、加えて人間が有する思考への否定でした。加えて、シュルレアリスムの作家は、夢想世界と現実世界を画面の中に混在させることで、同時代のブルジュア的道徳観やナショナリズム的神話すらも否定することへ挑戦しました。同時代とは異なり、産業技術の発展により仮想世界を簡単に人々は作り出し、疑似体験できる環境すらも、多くの人間に開かれたこの時代において、仮想世界(虚構世界)は想像の世界ではなく、オルタナティブな実在する世界であるとも言えるでしょう。
本展における彼らの作品は、この混沌とした現代を反映するかのように、破壊と創造を画面の中で共存させることで、どこか奇妙さを帯びながら、ある種の祈りや救いのシンボルになりうる表象を兼ね備えた表現の拡張を行い、既成概念の破壊と創造を試みています。
例えば、渡辺や栁澤は、画面内にある風景や形象にストロークを介入させることやレイヤー状に配置することで、画面の破壊を実践しながらも、そのプロセスを通じた特異点への到達を実現し、新たな画面の生成や価値の創造を行っていると言えるでしょう。
また、ニミュや坂爪の作品においては、どこか不気味でもあり、歪なオブジェクトを画面内や立体物として生み出し、そのモチーフを用いることで、実像と虚像が混在するこの現代社会からの人々の解脱や救いへと導いていると言えるでしょう。
そして、西本はデジタルツールを用いて、シアトリカルに作品を生成する過程を通じて、各作品の境界や各作品の中に存在する情報、可能性を人々に創造させます。
これは作家自身が一部の情報を破壊し、鑑賞者へ思考を促すことで、鑑賞者ごとの新たな物語が誕生するとも言えるでしょう。
このように本展では、歴史的文脈を捉えた上で、各作家が創造的破壊に果敢に挑むことで、これまでカプセル化されてきた世界への対面を人々に促します。
皆様のご来場を、心よりお待ち申し上げます。
Works
Installation View