地雷震展 ~漫画と絵画、交錯する地点を求めて~
髙橋ツトム
2025年 7月 12日
ー
8月 3日
SOM GALLERY

SOM GALLERY は、7月11日(金)から8月3日(日)まで、髙橋ツトムによる、「地雷震展〜漫画と絵画、交錯する地点を求めて〜」を開催いたします。本展では、数多くの漫画作品を発表してきた髙橋ツトム作品の中でも、デビュー作にあたる「地雷震」を軸に据え、実際のモノクロ及びカラー原画、描き下ろしの新作に加え、「スカイハイ」、「爆音列島」、「SIDOOH―士道―」といった、髙橋の代表作品の原画も合わせて展示いたします。
髙橋ツトムは、1965年兵庫県西宮市生まれの漫画家。1989年に講談社の『モーニング』で読み切り作品『地雷震』を発表してデビューし、その後も 『ビッグコミック』(小学館)、『アフタヌーン』(講談社)や『週刊ヤングジャンプ』(集英社)などの主要な出版社で数多くの人気作品を連載しています。髙橋の作品は、独特のタッチと緻密なストーリーテリングが特徴であり、フィルム・ノワールを彷彿とさせる戦慄さを帯びたスタイリッシュな作品を発表しています。筆ペンを使った太線やベタ塗り、墨汁でのトーン作り、ボールペンを用いた細かい描写を駆使して、作品の中にライブ感や疾走感、偶然性を取り入れている等、そのスタイルは他の漫画家と一線を画し、独自の世界観を展開しています。
代表作に、「地雷震」、「スカイハイ」、「爆音列島」、「SIDOOH―士道―」等があり、現在はビッグコミックにて「JUMBO MAX」、ビッグコミック増刊にて「ギターショップ・ロージー」を連載しています。
本展で主要な発表作品となる「地雷震」は、主人公の飯田響也を起点に猟奇的事件の解決を通じて、人間の心の闇や、それを引き起こす社会の歪みをテーマにした、ハードボイルドな作品です。人間の本質や社会の矛盾に実直に迫っていく本作品では、犯人像を深く掘り下げた描写や、独特な世界観が特徴となっています。
本展では、芸術領域における漫画の現在地点を受け入れながらも、漫画の今後の可能性を模索し、芸術的側面から向き合うことを意図しています。漫画は長らく、「芸術」として語られることを拒まれてきました。大量生産の印刷物、物語性、商業性、そしてページの束、こうした属性は、絵画や写真とは異なり、美術の制度から距離を置かれてきました。一方で果たして、漫画は本当に芸術たり得ないものなのでしょうか。
漫画には、美術で語り継がれる、明確な作家性が存在しています。独自の線の癖、コマの運び、背景の構成、視線の誘導─ページという場を通じて練り上げられる複雑な思考がそこにはあります。視覚表現としての豊かさ、時間と空間を再編成する形式的強度、それらはむしろ、現代美術の多くが模索してきた課題と交差しています。本展は、漫画を「芸術として正当化する」試みではありません。むしろ、美術とは何か、芸術制度とはどのような力学で構成されているのかを、漫画という形式の側から問い直すものです。展示される作品群は、漫画の文法を活かしながらも、物語を越え、キャラクターを越え、描線と構成そのものに向き合う、作家である髙橋の営為です。ここにあるのは、制度の外側で発酵してきた視覚思考の集積であり、芸術の内と外を分かつ境界そのものへの問いかけです。漫画は芸術の定義を更新する潜在力を秘めており、写真がかつて「アウラの死」をもって美術を刷新したように、漫画もまた、「芸術」の極北として制度への亀裂を開く存在となりうるでしょう。
本展のオープニングに寄せて、7月11日(金)19:00 - 21:00にはSOM GALLERYにて、作家を囲んでのオープ ニングレセプションを開催いたします。
本展への皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。
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