Reverb Time 60

マシュー・モナハン x 黒瀧 藍玖

2025年 8月 16日

9月 14日

SOM GALLERY

SOM GALLERY は、8月16日(土)から9月14日(日)まで、ロサンゼルスを拠点に活動するマシュー・モナハンと黒瀧藍玖による、「残響」を開催いたします。本展では、異なる世代であり、異なる文化的背景を持つマシュー・モナハンと黒瀧藍玖の制作的実践を通じて、現代における彫刻というメディウムの再定義と、制度・記憶・知覚に対する批判的思考の可能性を提示することを意図しています。

マシュー・モナハンは、1972年アメリカ生まれ、現在はロサンゼルスを拠点に活動を行っているアーティストです。モナハンは、ミクストメディアを巧みに駆使し、工作用紙やファウンド・オブジェなどの異素材を取り入れながら、得体の知れない不思議さを帯びた彫刻作品を制作しています。彼は美術史やモダニズムの影響を織り交ぜながら、ギリシャ・ローマ時代の彫像の断片的な壮麗さを想起させる造形や質感を独自の手法で表現します。彼の作品には深い緊張感が漂い、朽ちていくものと耐え残るものという二項対立を捉えながら、時間や美の本質についての省察を観る者に促します。また、モナハンの作品は彫刻作品に留まらず、ドローイングやモノプリントなど、多次元的な表層を持ち合わせた平面作品も発表しています。それらの作品は、テート・モダン、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、シカゴ美術館をはじめ、ルベル・ファミリー・コレクション、サーチ・コレクションなどに所蔵されています。

黒瀧藍玖は、2000年神奈川県で生まれ、現在は東京を拠点に活動しています。2022年に東京造形大学テキスタイルデザインを卒業。黒瀧は、繊維が交差することで立体的な構造が生まれる織物の造形に着眼を得て、手作業を通じた、経糸と緯糸の組み合わせを用いた、立体作品を制作しています。
代表作である、「Human」シリーズでは、鉄の空箱に無数の経糸と緯糸を配置し、その中に人間を配置して作られています。規則的な糸の線で構成されるフレームの中に人間を閉じ込めることで、パターン化された現代社会や人間の思考を浮き彫りにさせます。彼は自身の作品を通じて、空虚な現代社会や彼が捉える人間の視点を浮かび上がらせ、人々をアルゴリズムからの解放へと導くことを試みます。

モナハンと黒瀧は、世代も文化的背景も異なるにもかかわらず、いずれも「空虚さ」や「不安定性」を積極的に取り入れた造形言語を展開しています。彼らの作品は、構築的でありながら恒常的な崩壊の只中にあり、物質的な不確かさや、意味の過剰さを避けることで、むしろ鑑賞者の知覚と認識の働きを呼び起こします。二人の作家に共通して見られるのは、あらかじめ「満たされていない」状態を制作の出発点とする構造的態度です。モナハンは、美術史的な断片や神話的形象を再構成する過程で、物質の脆弱さと時間の不可逆性を彫刻という形式に刻印します。一方で黒瀧は、織物に内在する構造的論理と物理的テンションを応用し、制度的・情報的な枠組みの中に置かれた人間像の輪郭を、空間の中に再定位しようとしています。

このように両者の作品は、完成や統一といった近代的価値観への批評的距離を保ちながら、「構造」「素材」「空間」といった彫刻的要素に再解釈を加えています。モナハンと黒瀧藍玖の実践は、素材と形式の差異を超えて、可視性、制度、記憶といった現代的な問題圏に接続されています。それらの作品は、美術のメディウムを通じて、知覚の枠組みや美的制度に対する再考を促し、視覚的な表象がいかにして構築され、同時に解体され得るかを問います。モナハンは、断片化された古典彫刻の形式を、即物的かつ異素材的な手法で変容させることで、美術史的記憶に対する批評的距離を獲得している一方、黒瀧は構造化された繊維的モジュールに人間像を埋め込むことで、制度的規範に絡め取られた身体と主体の位相を可視化します。

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