To the other side

ヒュー・スコット・ダグラス x 渡邊涼太

2025年 5月 30日

6月 29日

SOM GALLERY

SOM GALLERY は、5月30日(金)から6月29日(日)まで、ヒュー・スコット・ダグラスと渡邊涼太による、「To the other side」を開催いたします。本展では、絵画作品という同じメディアにおいて、独自のアプローチを展開する二人の作家を切り口に、パラダイムシフトが起きつつある時代に対する人間のあり方をテーマに展開いたします。

ヒュー・スコット・ダグラスは、1988年イギリスのケンブリッジで生まれ、現在はニューヨークを拠点に活動を行っているアーティストです。ダグラスは、19世紀のサイアノタイプから最先端のAIに至るまでの画像生成技術を通して、著作性、労働、そして経済システムを探求しており、近年では、人間と機械の関係性やプロトコル的側面からの人間の解剖といった、人間の存在論へと探求を拡大しています。ダグラスの制作実践は、しばしばファウンド・フォトやコンピュータによって生成されたイメージから出発し、デジタル処理と手作業の操作を組み合わせたプロセスを通じて展開されます。たとえば、プリント工程に先立ち、Photoshopや画像生成ソフトを用いて素材の編集を行い、その後、テキスタイルやアルミニウムといった異種の支持体となる素材へのプリントを試み、最終的にその表面にハンドペインティングを施すことで、物質性と視覚性のあいだに新たな関係性を構築します。その作品は、すでにダラス美術館、ゲーツ・コレクション近代美術ギャラリー、サンフランシスコ現代美術館などに所蔵されており、数多くの国際展にて発表されています。

渡邊涼太は、1998年埼玉県で生まれ、現在は東京を拠点に活動しています。渡邊は、筆を用いず、自作のカッターで絵具を刻み、削り、切断する行為を通じて絵画を制作しています。描画と損傷が分かちがたく結びつくこのプロセスは、絵画生成という視覚的秩序の構築と同時に、そのものへの破壊的な介入をも行っています。生成と分解のあいだに生まれる“切断の痕跡”は、機械化や自動化が進む現代社会において、ロジックや計算が見落とし、除去しようとするノイズそのものであり、むしろそこにこそ人間の像は立ち現れると考える、渡邊の実存主義的観点での人間像の構築です。代表作「星屑」シリーズでは、デジタル上で作成した匿名の人物像を基盤に、自作のカッターナイフを使って、絵具を切り裂き、塗布していく過程を通じて、その偶発性と計算された線、形を結びつけます。この身体的行為を通じて、現代人の曖昧で揺らぐ存在を象徴的に描き出し、人工性と人間性が交錯する新しい「人物像」を浮かび上がらせます。それら作品は、対峙する距離や、肉眼かフィルターを通すか等、諸条件によって、像が立ち現れては消えていくという人間の不確かさや不可視性を画面を通じて提示しています。

本展では、機械化や自動化が加速する時代のうねりの中で、人間がどのようにそれらと関係性を構築し、共進化しうるのかという視点を通じた、双方の作品群を展開します。ダグラスは、自身を表現の主体ではなく、情報・素材・プロセスを接続・翻訳する論理構造(=プロトコル)であると定義し、技術間の余白を介して、新たな構造や意味を生み出す創造的実践者として、複数の技術を経て、環境・計算・物質が交差するプロセスの集積としての実験的領域の場を、絵画という枠組みにて発表します。また渡邊は、人間が「連続と離散」、「構築とズレ」のあいだを揺らぐ構造体であるという視点のもと、自身の描画行為(創造的破壊行為)を通じて、システムが最適化する中でこぼれ落ちる微細な痕跡を拾い上げ、論理や演算では辿りつかないもう一つの世界を、浮世絵の雨脚、クラウドにおけるデータの断片化、チューリング的演算の論理等を用いて、絵画として発表します。

皆様のご来場を心よりお待ち申し上げております。

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