Each in Three

稲垣美侑、川村摩那、塩出麻美

2025年 10月 3日

11月 2日

SOM GALLERY

SOM GALLERYは、10月3日(金)から11月2日(日)まで、稲垣美侑、川村摩那、塩出麻美によるグループ展「Each in Three」を開催いたします。本展は、三名の実践を通じて、モダニズム以降の絵画が抱え続けてきた根源的な問い、「絵画はいかに存在し得るのか」を改めて見つめ直す試みです。

20世紀のモダニズム絵画は、セザンヌ以後の平面性の探究や抽象表現の展開を経て、「何を描くか」から「絵画はいかに成り立つのか」へと問いを転換しました。その後のポストモダンにおいては、言語や記憶、制度や環境といった要素を取り込みつつ、絵画は表象を超えて拡張を続けています。しかし今日において、絵画は再び〈世界との結び直し〉を求められています。本展に参加する三名のアーティストは、それぞれの方法でこの課題に応答し、異なる軌跡を交差させながら、絵画を「生成する場」として提示します。

稲垣美侑は、「世界はどのような姿をしていたか」という根源的な問いを起点に、庭先や空き地、自然や動植物といった身近な環境を丹念に観察します。そこに積層する記憶や感覚をすくい取り、複数の視点を往復させながら再構築することで、流動的な景色を描き出します。細やかな筆致と大胆なストロークが交錯する画面は、日常に潜む無数の営みや他者の気配を映し出し、展示空間をひとつの「庭」へと変容させます。その「庭」は、生と死、可視と不可視を隔てなく受け入れる生息地(habitat)として、鑑賞者に世界を新たに想像し直す余白をひらきます。
川村摩那は、自作の詩や散文を起点に、言葉とそこに浮かび上がる情景を絵画へと展開します。キャンバスに記された文字は水に滲み、崩れ、やがて抽象的な線や色彩へと変容します。その痕跡には、言葉が意味を与えながら同時に失っていく姿が刻まれています。文学的素養に根ざした言語感受性と絵画的実践の交錯は、言葉に定着しない感覚や印象を漂わせ、「まだ名づけられない世界」の気配を呼び起こします。そこには、読むことと見ること、知覚と想像が交錯する言葉の姿が、絶えず揺らぎ続けています。
塩出麻美は、セザンヌのリンゴ作品を手がかりに「対象そのものを描く」という不可能のともいえる問いに挑みます。対象を全体像として掌握するのではなく、多面的で曖昧な姿のまま浮かび上がらせるため、塩出は「±0.5次元」と呼ぶ、平面や立体に還元されない中間的領域を設定します。そこに立ち上がる絵画は、存在を固定化せずに受け止める場として展開され、人と人との関わりにおいても、隔たりを残したまま結びつく新しい関係性を示唆します。

三者の実践に共通するのは、絵画を単なるイリュージョンや完成された像としてではなく、時間や言葉、記憶や関係性のなかで生成し続ける場として提示する姿勢です。環境を往復し、言葉が崩れる痕跡をすくい、対象を把握せずに浮かび上がらせるこれらの試みは、いずれも「絵画はいかに存在し得るか」という根源的な問いと接続されています。
本展は、三者三様のアプローチが交差することで、絵画を「像」としてではなく「経験」として受け取る新たな視座を開きます。モダニズム以降の絵画論を反復するのではなく、その延長線上で現代において絵画を問うとはどういうことか、その切実さを鑑賞者に突きつける場となるでしょう。

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